仙台市の個別指導塾X社で働いていたAさんは、2023年3月、ある日突然オーナーに呼び出され、退職を強いるパワハラを受け、以降会社を解雇されてしまいました。その不当な扱いに怒ったAさんは、会社からのパワハラや不当解雇をめぐる団体交渉を始めました!
相談の経緯や、団体交渉の申し入れの様子について、詳しくは前回のブログをご参照ください。…https://sendai-keyaki-u.com/2023/06/20230607kobetsushido/
会社側がいう「解雇ではなく有期雇用契約の期間満了」は本当か?
先日、Aさんとユニオンは会社に対し団体交渉を申し入れに行きました。その際、対応した上司は以下のように発言しました。
「Aさんとは話し合いをしたが、まとまらなかった。」「話し合いでまとまればよかったのだけど、まとまらなかったのでやめてもらった。」「Aさんは解雇です。」
上司の発言からも、今回の件が解雇だったことが明らかでした。
しかし、団体交渉の開始時点で会社側はAさんは解雇ではなく、有期雇用労働者の雇止めだと主張してきました。Aさんは契約期間が1年間の有期雇用労働者だったので、ただの期間満了だったとの主張です。
このような会社の主張は、Aさんの雇用実態とかけ離れたものでした。Aさんと会社の間の契約書には、契約更新の有無については「自動的に更新する」に〇がつけられており、実態としても、Aさんだけでなく他の講師についても同様に、更新日ごとの面談や契約書の更新もおこなわれておらず、自動で更新されていました。
そして、有期雇用労働者の雇止めに関する過去の裁判例の傾向でも、今回のような期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたものは、ほとんどの事案で雇止めは認められていません。
また、そもそも、3月11日の面談の際、契約更新についての話や、期間満了の雇い止めする旨の通知は一切なく、社長はAさんに何度も退職を迫り、「(退職について)分かった?」と繰り返し、強引に退職させようとしていました。そして、研修として入る予定だったシフトについても「もう来なくていい」という趣旨の連絡をAさんに行っており、面談中に翌週以降のAさんのシフトが消され、会社は3月11日以降Aさんを出勤させていません。
それを裏付けるように、Aさんと上司とのLINEでは、これ以上出勤させない旨が告知されています。そして先ほども触れたように、団交の申し入れの際に、上司は「解雇です」と発言しています。
したがって、わたしたちはAさんと会社との契約は無期雇用であり、有期雇用の雇止めという会社の主張は不当で、今回起きたのは無期雇用労働者としてのAさんに対する事実上の解雇であったと主張しています。
解雇をするに足る理由はあったのか
団体交渉で特に論点となったのは、会社側がなぜAさんを解雇したのかという点でした。
なぜなら、会社が労働者を辞めさせるときには、それ相応の合理性(客観的合理性)と、本当に辞めさせるほどなのか(社会的相当性)という点が厳しく問われるからです。
会社側はAさんは「勤務態度が悪」く、これ以上業務の改善は不可能であると判断して解雇したとしています。この理由で解雇するのであれば、これまで会社がAさんに対して、
①業務改善のためにどのような指導を行い、
②それに対してAさんがどのような対応をしたのか(改善する姿勢があるかどうか)
③改善がみられたかどうか
という3点が厳密に検討される必要があります。
そのうえで、会社は何度もAさんに指導を行い、Aさんに業務改善の意志が全くなく、改善もみられなかったような場合にのみ、解雇が認められます。
団体交渉前も、団体交渉開始当初も、会社はAさんに対して再三、業務改善指導をしたが、勤務態度を一向に改善しようしなかったから辞めさせた、業務改善の姿勢が見られなかったと、本人に向けて何度も繰り返しました。
解雇の理由を聞いても具体的な問題点が「なにも」出てこない
では、会社はAさんに対して、具体的にどのような業務改善指導を行い、Aさんのどのような対応をもって解雇の必要性を判断したのでしょうか。
団体交渉中の会社の社長の発言は、全く具体的ではない事柄を述べた挙句、3月11日の面談時の発言同様、Aさんの「雇止め」の理由について具体的な事柄は把握していないことが判明しました。
団体交渉の場で上司は、Aさんに対するこれまでの業務改善指導について、何点か例をあげました。団体交渉の開始当初は、代理人弁護士が上司に、Aさんが自分の当時の教え方について改善しようという態度があったかを尋ねると、「なかったです」と答えていました。しかし、実際にはAさんは指摘された内容を改善しようとしていました。その具体的な状況についてユニオンやAさんからの指摘があり、それについての認識を問うと、なんと上司はAさん自身業務を改善しようというふうにはみえていたと答えたのです。そのようなやりとりを続けた結果、例が上がったすべての事柄について、Aさんは勤務態度を改善しようという姿勢や、改善していたことがその場で証明され、結局上司や社長もそのことを団体交渉の場で認めました。
つまり、会社側が当初「雇止め」としていた理由については、交渉のなかで事実ではないと、会社側が認めたのです。そもそも、社長はAさんの勤務態度や改善内容について認識していたかは怪しかったのです。3月11日のAさんとの面談の際に、どこがダメだったか教えてほしいというAさんに対し、「そんなの知らないよ」と返していました。
業務改善の姿勢が大いに見られていた、では何が問題とされているのか??
では、雇止めの判断をするほどAさんの何が問題だったのでしょうか。
論点をすり替えるように、会社側は、Aさんは生徒や保護者からのクレームが多かったと話しました。
しかし、Aさんは2022年春以降、そのクレームの内容について、ほぼ共有されていませんでした。
団体交渉当初、代理人弁護士が上司に、クレームがあったこと自体はAさんに伝えていたかどうか尋ねると、上司は、伝えていたが、入社したてのまだ慣れていない前半(2021年度)は余り伝えていなかったと答えました。つまり、そもそも改善する余地がない状態がしばらく続いていたのです。しかも、そのクレームの具体的な内容についても、会社側は「(内容については)あいまい」で、この場では伝えられないと言いました。クレームの内容が共有されておらず、そのうえ指導もされていないのですから、Aさんが勤務態度を改善させる意志があるかどうかを判断できるわけもありません。「覚えていない」などの曖昧な発言もふくめて、そのような理由で人を解雇するのは不誠実です。指導するには、クレームの内容を、その生徒または保護者からヒアリングする必要がありますし、記録をとるべきでしょう。団体交渉での話し合いが進んでくると、上司は、味方である代理人弁護士からも、指導を本当に実際に行っていたのか尋ねられる始末でした。
そして、クレームの内容について伝え始めたあとは、先に述べた通りAさんは改善を試みており、実際改善もあったと会社側も認めていました。Aさんに勤務態度を改善する意志があったこと、会社側がなんらちゃんとした指導をしてこなかったことが明らかになると、会社側は、Aさんと他の講師の人間関係が一番の問題であると言い始めました。しかし、Aさんとほかの講師の人間関係について、Aさんが会社から指摘されたのは、退職を強いられた2023年3月11日の面談のときが最初で最後でした。それではAさんが勤務態度を改善する余地はありません。ゆえに、そのことをもって解雇するとしたら、不当解雇でしかありません。
退職を迫るパワハラの実態
実態として、3月11日の面談は、社長が有無を言わさずにAさんを解雇するという面談でした。Aさんがオーナーから、実際に言われたことは、以下の通りです。Aさんが面談直後に作成したメモをベースに、基本的に時系列で記載しています。
オーナー「なんでこうなったのかわかってる?」
Aさん『私に辞めてほしいってことですよね?』
オーナー「○○(上司)や他の講師から聞いた感じだと、A先生は生徒ファーストじゃない」
オーナー「話してみて、よくわかった」 「辞めてもらいます」
Aさん(中3のX君とのことについて説明)
オーナー「それ(X君の『誰もあなたにいて欲しいなんて思っていないですよ』)」を言われてどう思った? 」
Aさん『そんなことをいう子もいるんだなって思いました』
オーナー「そんなこと言われるなんて相当だぞ。」
オーナー「人間って2通りだよね。こんなこという人もいるで終わらせるのか、何がダメだったのかと思い巡らせる人と。」
Aさん『どういったところがダメだったんですか?』『せめて、どこが悪かったのかだけでも教えてもらえませんか?』
オーナー「そんなの知らないよ。ただ、講師の側からも、A先生がいるのなら辞めたいと言っている人がいるってことは言っておく。俺はただ、代表して言っているだけだ」
Aさん『辞めたい人が辞めればいいのでは??』
オーナー「辞めた人の分どうするんだ?」
Aさん『その分雇えばいいのでは?』
オーナー「人を雇うのにいくらかかると思っているんだ」「無責任なことを言うな」 「(あんた)がオーナーじゃない。オーナーは俺だ。」 「生徒と講師辞めた分、責任取れるのか?」
オーナー「今日までです」
オーナー「残っても4月以降授業入れないよ」
オーナー「○○(上司)!」
上司「はい」
オーナー 「来週以降の授業変えておいて」
上司「はい」
*来週以降の授業予定に、Aさんの名前が×される
オーナー「もう決めた」「1人を捨てて20人を守る」
Aさん『切り捨てるんですか?』
オーナー「守るって言って欲しいな」
オーナー「俺、休みの日なのに来てやってんだぞ」 「もう十分話したって、1時間もとったんだよ?」
オーナー「わかった?」
Aさん『何がですか?』
オーナー「もう終わりってこと!」 「だから言ってるじゃん」
Aさん『続けたいです』
オーナー「だからもう無理だって」
オーナー「B先生、場所変えよう」
*社長が面談場所から去る
このようにAさんは会社からのまともな指摘も指導もないなか、ある日突然面談が設定され、1時間に渡ってオーナーから圧迫を加えられるパワーハラスメントを受けた末に解雇されたのです。このような社長の発言は、Aさんの業務についての具体的な指導のない叱責であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものです。
交渉内容を無視する個別指導塾X社
交渉を始めて以降、会社側からは「辞めてもらう」の一点張りです。
2022年春頃までの本人なりの努力を認めるとありましたが、それ以降は会社側はAさんに対してほとんど指導していません。2022年夏以降、会社が指導を行わなかったことで解雇とは、あまりに不当です。
以上に見てきた会社側の回答は、とてもちぐはぐなものです。このようなちぐはぐな回答になっているのは、会社側が労働法令を遵守する姿勢がないままに不当な解雇を行い、それがトラブルになり、辻褄合わせをしようとしているからだと考えられます。契約内容や労働実態を適切に踏まえて対応すれば、今回会社がAさんに行ったような行為はあってはならないはずです。最初から、労働契約の内容などはおざなりにしていたのでしょう。実際、Aさんは、雇用契約書の控えや就業規則ももらっていませんでした。就業規則は職場でも見たことがありませんでした。雇用契約書の控え等が労働者に渡されていないことや、就業規則が従業員が閲覧できない状態であったことは会社として労働法令を遵守する態度とはいえません。業務改善の指導すらまともにしていません。
労働法令より社長の恣意的な考えが優先され、社長がなんでもできるような職場であってはならないと考えます。ユニオンは引き続き、会社にきちんと責任をとらせ、職場を改善するよう求めていきます。
Aさんは自分が不器用で、うまくできないことが多く、そのことを悔やむことがありました。しかし、諦めず会社と闘っています。不器用で職場でうまくいかないことが多い人でも、職場でのもやもやや納得できないことがある人はあきらめないでください。
最後まで闘い続けます、どうぞご支援をお願いします!
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